魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)

「あん? なんだてめぇ?」

 途端ザドは頬を強く打たれ、地面に放置された瓦礫の中へ頭から突っ込む。砂の味を舌で味わい、床を舐めたような気分にされたザドは立ち上がると憤慨する。

「ぐ……おいっ! 俺はここの、ファークラーテン子爵の息子なんだぞ! その俺様に貴様らみたいな大工ごときが暴力を振るいやがって……! どんな目に遭うかわかってるんだろうな!」

 しかし、それに大工が返したのは、完全に見下した嘲笑だった。

「はん、そんな風体をしてるやつが貴族だなんて信じられんな。それにお前が万一、ここのファー……なんたら家の息子だとしたって、ここの家主は借金も払えずに女とどこかへ夜逃げちまったって話だぜ。おおかたその爵位とやらもどっかで金に変えちまってるに違いねぇだろ。ま、小金をいくら手に入れたところで、そんなろくに働きもしたことねぇやつが世の中に出てみろ、あっという間に蓄えを失くして路頭に迷うに決まってるがな」

 大工の仲間が腰に手を当て、憐れむようにザドを覗き込んで来る。