魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)

 そうして一身に彼は私を抱き締め、涙ながらに囁いた。

「頼む、傍にいてくれ。お前しか、俺を幸せにできない……」

 私は脱力しながら、どこか恍惚とした心地でいた。この人がこんなにも私を想っていてくれることが、嬉しくて堪らない。

 神様は、どうしてこんなに素晴らしい出会いを私に与えてくれたのだろう――。

「……指輪を、嵌めてくれますか?」

 降参だ……。
 もう覚悟を決めて、この先彼を支えてゆくしかない……。彼が私に向けてくれた心の分を、私が一生懸命他の皆に返していこうと――そんな思いのもと、私は指の腹で彼の腫れた頬に伝う涙を拭い、その手を目の前に掲げた。

「……ああ。必ず幸せにする」