魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)

「もう、我儘なことをしていてはいけないのです。あなたは自分が英雄であることを自覚しないと。これからはもっとたくさんの人があなたに期待を寄せる。それを支えられる、賢くて心が綺麗な人を奥様にしなければ。きっと、探せばすぐに見つかる……あなたは誰よりも優しくて、素敵な人ですから。私にはそれを、遠くから見守らせてください」

 伸ばされた手を拒絶するように両の手を後ろにやると、私は二三歩歩下がって祝福の笑みを浮かべた。そうできたつもりだ。
 ここならば、ファルメルの街からはそう遠くはない。彼の姿を見送って、しばらく悲しんだら、店に帰ろう。仕事をしていれば、きっとこのじくじくと疼く胸の痛みも、やがて薄れ、忘れてしまえるだろう。

「さようなら」

 告げた言葉に彼の手が力を失くす。

 そう、それでいい……。そのまま、シャルビュ号を連れて城に帰り、私のことなど思い出にしてくれたら。
 しかし……。
 
 ――バキッ……。

 耳に痛いひどい音がして、私は目を疑う。