魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)

 静かな森の空気が彼と共に柔らかく私を包み、心を癒してくれる。嬉しさと悲しさ、その他色々な感情がごちゃごちゃと渋滞する中で、それでも私は申し訳なかった。

 彼は、大切な家族ににはもう二度と会えないのに――。

「ん……どうかしたか」
「いいえ……」

 私が彼を見上げ、金の瞳も私を見返す。

 そういえばあの宴の夜……今は隠れて見えないけれど、慈しむような優しいその奥に、私のものよりずっと強い寂しさがあることを知るところとなって……。

 私はディクリド様にもたれかかったまま、しばし無言で考えを巡らせる。彼もそれに、口を挟まず付き合ってくれた。

 こうしたささやかな関わりでも、ディクリド様の寂しさはわずかに慰められているのかも知れない。今はそれで構わないとして、いったい私たちのこの先はどこに繋がっているのだろう……ふとそんなことを考えさせられた。
 今までの色んな事件でおざなりになっていたその思考が、リラフェンの結婚話などもあって、私の中で少しずつ具体的になってゆく。