魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)

 爽やかな風が戸口から吹き込み……。

 そこで、記憶にはっきりと刻んだ香りが、私の胸をとくっと跳ねさせた。

 もしかして――。

「久しぶりだな、サンジュ」

 低く柔らかい声が、耳から体中を通り抜け、私は驚き上擦った声をあげる。
 見上げれば、何度も夢に見た顔が、そこにある……。

「ディクリド……さ、ま……!?」

 やや疲れた顔をしているが、それは明らかにこのハーメルシーズ領を収める辺境伯、ディクリド様の姿に違いない。彼の後ろには愛馬のシャルビュ号の姿もある。
 私は胸にじわりと、温かいものが広がってゆくのを感じた。

「中々会いに来れなくて済まなかった。はは、やらなければならないことはたくさんあるのだが、放りだして来てしまった。どうしてもお前に先に会いたかったのでな」
「あ……あ……」