魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)

(ここも、攻められていたのだな……)

 砦の壁には大きな弩や火矢などで攻撃された形跡が見え、左右が川に挟まれた攻めにくい地形だったにもかかわらず、マルディール軍が突破を試みたのだろうということが窺えた。 
 敵軍がああして、平原に戦力の多くを集中したのも、あの場所が唯一大軍で一度に攻め寄せられる地形だからこそ。ディクリドもあの場所で一番激しい戦いが起こることを予想して敵軍を待ち受けた。

 相手からすれば、ディクリドを倒してしまえばハーメルシーズ領を制圧できるという自信があったはずだ。かといって向こうも優秀な指揮官と多くの兵士を失っており、戦の継続は難しかったはず。領主不在だったこの数日間は、相手にとっては願ってもないチャンスでもあり、下手に侵攻してこれ以上兵を消耗すれば、今度は自国の防衛すら危うくなる難しい局面だ。マルディール軍は、いったいどういう判断を下したのか……。

(これでこの砦を突破されていたら、皆に合わせる顔がないな……)