魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)

 人馬一体の旅は続き、道中で綺麗そうな水場を見つけては、シャルビュ号と一緒に並んで喉を潤した。一度気を失いかけて溺れそうになったが、その時は、彼が服の後ろ襟を噛んで引き揚げてくれた。
 水辺に生えた草を美味しそうに食む馬を見ては羨ましそうに思いながら、時には敵兵から身を隠し、時には洞窟で雨を凌ぎ……そして見覚えのありそうな森に辿り着き、ゆっくりと休んだ翌朝が今のこと……。



 警戒はしていたが、辺りに不思議なほど戦の気配はない。戦場から離れて半月以上は経っているのではないかと思うが、ここは果たしてハゼルハイド平原の近くなのか……。

 森を抜けると見覚えのある砦が近付いて来て、ディクリドは大きく息を呑んだ。

 戦が始まる前に、ディクリドが駐留していたハゼルハイド砦とは別物だが、間違いなくハーメルシーズ領の砦だ。マルディール軍を撒こうとあちこち走り回った際に、進路を外れてしまったのだろう。
 それでも……ここはもうハーメルシーズ領なのだ。