魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)

 ザドはその場にあった小さな椅子を掴むと、私が張った水蒸気の煙幕に無防備に飛び込んだ。バキ、バキとそれが振り下ろされ、魔導具たちが破壊される音がする。その間に、私は壁に立て掛けていたひとつの魔導具を手にする。

 やがて霧は晴れ、魔導具の破片が散乱した水たまりの中で憎々し気にこちらを睨むザドと、私は対峙した。

「く、くく……悪あがきは済んだか? そんな農業用の魔導具でどうしようっていうんだ?」

 私が手にしていた地割のフースを目にし、彼はこちらににじり寄る。今の私は円形の店内の端に追い詰められた形だ。左右は大きなテーブルに囲われ、身動きの取りづらい状況に立たされている。

 彼は勝利を確信したのか、無遠慮な水音を立てながらこちらに迫ってくる。

「手こずらせてくれたが、結局は足搔いたところでなにも変わらねぇってことだ。無駄に暴れただけ被害が大きくなったな。はは、お前が死んだ後でこの店も薪にしてやるか」
「…………」

 私は無言で、手の中からひとかけらの鉱石を転がした。