魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー（ザ・マーグレーヴス・パーベヤー）

　充血した目をぎょろつかせ、ザドはナイフがを頭の上にかざし、思いきり振り下ろした。殺意の篭った銀塊が首元に迫る。けれど……。

　――死んでたまるか！

　体が勝手に反応し、私は懸命に身をよじってそれを躱していた。ナイフは背にしていた壁に深く突き刺さりザドの動きが止まる。次いで私は、思いっきり足の裏で彼の腹部を蹴り押す。

「てめぇ！　うぐっ……」

　髪の毛が数本ブツリとちぎれる感触がして、同時にザドの手が頭から離れた。
　私は追い詰められていた場所から抜け出すと、いくつか転がっていたロッドを地面から取り上げ、肩を弾ませながら彼に構えた。

　恐怖に縛られていた私がどうしてこんなことができたのか、だんだんと私は理解していく。ある感情がお腹の底から、強烈に湧き出て来ていたのだ。
　私個人だけならまだしも、彼は理不尽にも、私に関わった大切な人たちまで憎み、害しようとしている。それに対して感じた、今まで意識することのなかったこの想いの正体は、きっと……。