魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)

「お前を助けに来たあの男、ハーメルシーズの辺境伯とやらも今は戦でいねぇらしいじゃねぇか。戦場で野垂れ死ぬならそれでもよし、もし無事に帰って来たとしても……愛する女は墓の下だ。どれだけの絶望を抱くか、想像しただけで胸が空く……」

 このザドの歪んだ価値観はいったいどうやって形作られたものなのか。少なくとも、父たちは彼に、私にするよりずっと愛情をもって接していたはずなのに……。

 与えることを身に学ばず、自分以外をすべて略奪の対象としてしか見られない。いつしかそんな人間に彼は育ってしまった。彼の目にはきっと自分より富める者しか人として映らず、それを見ては不服を抱き、狂おしい欲望を抱くのだろう。それもまた、永久に心が満たされない地獄だ。

「さあ、そろそろ終わらせよう。お前もかわいそうになぁ……。こんな家に生まれてなきゃ、ひとかどの魔導具師になって、人生を謳歌できたかも知れねぇのに。でもな、これが運命ってもんなのさ。無駄な足搔きをお前がしたせいで、俺らまで巻き込んで周りを全部ぶっ壊しちまった。でもな、終わりは変わらねぇよ。ここでお前を始末し、俺は必ず返り咲いてやる……! 分不相応な幸せを手にしようとした自分自身を恨んで、逝けっ!」