魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)

「うぅ、や……やめて」
「やめるものかよ。俺はお前への復讐を果たすためだけに、こんな田舎くんだりまだやって来たんだからな。可能な限り痛めつけ辱めてやりてえところだが……いつさっきの女が戻って来るか分からねぇ。さっさと済ましてさっさと戻るか……。その後は、ソエルの野郎だ……。あいつの周りには手下がどれだけいるか知らんが、毒でもなんでも使って、必ずどうにかして殺してやる。そうすりゃあ、行き場のなくなった伯爵位が俺に転がりこんでくるかもしれねえしなぁ、ひっ、ひひっ……」

 その薄ら笑いにぞっとした。

 ソエルの伯爵位は、あくまでグローバス侯爵の尽力あってのもの。もしソエル自身が不審死を遂げたとして、ザドの元に転がり込むことはないと私にでもわかる。しかしそんなことすら分からないくらい、今彼は正常な判断力を失っているのだ。私を殺すことにきっと躊躇いなど露ほども持たない。

「へ、へへ……。今どんな気分だ、お前は? 自由になって、好きな男ができて、毎日が充実してたんだろう? でも、そんな幸せも何かあればすぐに終わっちまうんだ。今の俺みたいにな……」

 ザドが、右手に握ったナイフを喉元に寄せてくる。彼はまるで弄ぶように何度か私の喉をちくちくとその先端で突き、うっとりとした顔で言う。