魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)

 だが、彼はすべてを心の裡に秘め、長い時間をかけて確実な方法で、私とファークラーテン家の因縁を断ち切ろうと動いてくれていた。父の信頼を得るために私を心無い言葉で貶し、冷たく接する一方で、自らの未来を人に売ってまで私を助けようと……。

「ぁ……」

 複数の感情が心の中で(せめ)ぎ合い、混ざりあおうとしている。
 微動だにできず、私はその場で成り行きを見守る。その隣にディクリド様は進み出ると、ついにその声を発した。

「私はその日、たまたま王都の運河にかかる橋からサンジュが身投げしたのに気づき、引き揚げると医者に見せた。その際に身の上話を聞かされ、我が領地へと保護したのだ。 彼女はこちらに迷惑を掛けまいと、自らの家名を明かすことはなかったが、それは新しい生活には不要だと判断した。彼女がこれまでに大きな虐待を受けているという医者の診断もあったのでな」

 彼は、入り口に立って裁判を心配そうに見守る初老の医者を示すと、聴衆に以降の私の動きを語って見せる。

「ハーメルシーズ領に来ると……サンジュは未体験の生活に苦労しながらも、懸命に我が城でなれない下働きをこなすなどして、自らの手で居場所を作っていった。そののち、過去の傷とも向き合い、未だ魔導具の恩恵を得られずにいたハーメルシーズ領の民を思ってその技術を振るおうとしてくれたのだ。彼女を辛い過去に立ち合わせ、魔導具を作るように仕向けたのはこの俺だ。故に、彼女に罪があるというのなら、すべての(とが)は俺が負うべきだ」