魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)

 ハッと――父が気付いたように息を詰まらせた。

「……ソエル。よ、よもや……グローバス侯爵への紹介は……」
「そうですよ父上。私が彼に頼んだのです。妹をこの家から解放する手伝いをして欲しいと」
(そ、そんな……)

 私はその場にへたり込んだ。幼い頃を思い出して話を聞いた今でも、とても信じられない。まさかソエルが、私をこの家から救い出そうとしてくれていたなんて……。

「ほっほっほ……そういうことじゃ」

 そこでグローバス侯爵が法廷に向かって歩き出し、ソエルの隣に並んだ。

「この坊やは、身分も弁えず幾度も文をしたため、何度追い払われても辛抱強く頭を下げに来よった。仕方なく話を聞いてやった儂は、生涯の忠誠を尽くすことと引き換えに、望みを聞き届けてやることにしたというわけじゃ。あえて悪評を父親の耳に忍ばせ、その娘と婚姻を結ぶふりをして、こちらに匿う。後に病で死んだと見せかけ、別人に生まれ変わらせ、新たな人生を歩ませてやる。そうすれば儂も優秀な手駒を得られ、坊やも憂いなく家を捨て、こちらに仕えることができるというわけじゃ。しかし、すんでのところで目論見は失敗してしまったがのう」