魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)

「やめ……やめてぇぇっ……! あぁっ……!」

 彼女は私を床に組み伏せ、勢いよくそれを振るった。しなった鞭の先が背中で何度も弾け、皮膚を容赦なく傷つける。
 痛みで背中が痺れ、私の悲鳴がか細くなった頃、ようやくそれを止めたのはザドだった。

「まあまあ。父上母上、そこまでに。それ以上やれば、裁判の際にこちらがこいつを痛めつけたことが知れ、我々に不利に働くかも知れませんよ。すべてが終わり、こいつの罪が確かなものとなるまで、怒りをぶつけるのは取っておきましょう」
「ぐ……物足りぬがな。ではザド、そやつを期日まで部屋に閉じ込めておけ」
「ふふ……あまり食事を与えるのではないわよ。せいぜい飲まず食わずにさせて、今までの罪を悔い改めさせなさい。まったく……二度と顔も見たくないわ。そんな娘」
「かしこまりました。……そう言えば父上、ソエル兄上は裁判には参加されないのですか?」

 軽く肩を弾ませながら母が私を解放した時、ザドがそういえばと、この場にひとり姿のない人物の名を出す。

「うむ。あやつはどうも慣れぬ新領地の整備に手間取っている様子でな。そちらに集中させて欲しいと手紙を返して来た。やつは端からサンジュのことなど路傍の石ころのようにしか思っていなかったからな……。グローバス侯爵との関係を取り持っておってくれたのはソエルだし、家族でこ奴の行く末を見届けられぬは残念だが、仕方あるまい」