魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー（ザ・マーグレーヴス・パーベヤー）

「ふう……」

　私はひとりになった室内で、窓際から身を乗り出して外の景色を眺めた。

　きっと今日は私にとっても特別な日だ。
　私が苦しんでいた十年以上の歳月が、この地を訪れてからの数か月で完全に思い出されなくなったわけではない。この先幾度もそれを思い出し、視界を塞がれたような気持ちになることもあるだろう。

　でも……それでも私が以前の様に死に逃げることはもうない。周りに大切な人がたくさんできて、こんなにちっぽけな私でも誰かの力になれることが分かったから……。

　この窓の外に拡がる大地に寄り添い……ディクリド様と一緒にそこに住む人たちを支え、すべての苦楽を共にしてゆこう。
　ここ、ハーメルシーズ領こそが私の居るべき場所だ――心からそれを感じ、皆が織りなすいくつもの未来を想像すれば、目の前の景色は希望の美しい光で溢れて見えた。