魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)

 今なら、私を生んでくれたことを感謝できそうな気がする……。

「……済まない、皆。助けられなくて……」
「いいえ。皆さんが、あなたを守ることを望んだんです……。今あなたがこうしていられることを、ご家族は、きっと誰よりも喜んでくれています」

 呻くような声で悔やむ彼の頭を、私はそっと撫でた。
 家族とは特別なものではないのかもしれない。血の繋がりが有る無しに関わらず、お互いを誰かと比べようのない、大切な人だと思えるかどうか。その人のしてくれたことを愛を持って受け入れられるかどうか。それを繰り返し確認することで、分かちがたい絆がきっとそこに生まれてゆく……。

 それからも、ディクリド様は私に思いつく限りの家族との思い出を語ってくれた。私は彼の体温を身近に感じながら、ずっとそれを幸せな気持ちで耳にする。

 密かな時をしばらくふたりで過ごせば、そのうちに月は空に溶け消え、朝日が大地を照らし出した。

「あっという間だったな……」