魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)

 彼の良心に訴えかける、ずるい言葉だったかもしれないけれど……。
 ディクリド様は軽く目を見開くと、しばらく考える素振りを見せた。でもついに……身体を横倒すと、私の膝の上に頭を乗せた。彼の低い声が私の身体を心地よく揺さぶり始める。

「家族……か。俺の家族もまた一般的なものとは程遠いものだったろう。でもそうだな、大切に育てられた記憶はあるんだ。父上は真面目な人だったが、忙しい仕事の合間を縫って俺に色んな知識を授け、成長を見届けてくれた。母上は、いつでも俺が傍に行くと柔らかに微笑みかけ、頭を撫でてくれたな。叔父は俺に武芸を仕込むときこそ厳しかったが、それ以外はいつも明るく、冗談で俺をよく笑わせてくれたよ」

 今は私もよく知る、ハーメルシーズ城のあらゆる場所での思い出が、ディクリド様の言葉と共に私の頭の中を巡ってゆく。

 羨ましい――そう思いながらも、私の中には彼がそういう環境にいられたことを喜ぶ気持ちがあった。その人たちのおかげで、ディクリド様はこんなにも優しく、強く育った。そうでなければ相次ぐ戦いで生き残ることさえも困難だったはずだ。

「今となっては、いったい誰とどう血が繋がっていたのかは分からないが……それでも、彼らが生きている間、一度たりとて、俺があの人たちの子供なのだということに疑いを抱くことはなかった。疑わなくてすむよう、彼らがそうさせてくれていたんだ……」

 ディクリド様は、目を閉じたまま体勢を変えて仰向けになる。