魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)

 ここに来て……私は自分を大事にしてくれる人たちとたくさん出会えた。そして私の中にも、そのひとりひとりを大切にしたいという心が生まれた。
 そんなかけがえのない人たちを、彼は目の前で失っていたというのに……私は知らなかったとはいえ、そんな彼に自分で背負うべきだった実家での苦しみを吐き出し、無理やり押し付けた。

(恥ずかしい……)

 私の手が、ドレスの生地をぎゅっと握り込む。
 彼の苦労には気付こうと思えば気付けたはずだ。彼に家族が居ないこと、どうして魔術を嫌っているのか……ヒントはいくつでもあったのに、いつか気が向けば話してくれるかもしれないなどと、知ろうともしなかった。この地を守るため、いつ果てるとも知れない戦いに赴いた彼が、二度と会えなくなることだってあるかもしれないのに。

 ――今ここで、できる限りのことをしたい……。

 そう思った私は迷いを振り払うと、彼の袖を引いた。

「ディクリド様……少しだけ時間をいただけませんか?」
「なにをするつもりだ?」