魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)

 そんな母親を元気づけようと、ディクリドが足繫く見舞っていたある日、その事件は起きた。
見舞いの白い花束を携えて寝室を訪ねると、グレイアは珍しくベッドから起きていた。ディクリドは気分が良くなったのかと安堵して、携えていた花束を彼女に贈る。

 もう少しすれば、自分は成人し、ハーメルシーズ領を継ぐ資格を得られる。そうすれば、もう母に心配などさせない。長い時間をかけてでも確実に臣下たちを説得し、彼らを納得させた上で新しい領主としてこの地を治めてゆく。

「ディクリド、こちらに来てちょうだい」

 そんな決心を伝えようと、母に呼ばれたディクリドは近付いていった。

「母上、俺は必ずや父上たちの意志を継ぎ、この地を立派に治めてみせます。だからご心配召されぬよう。どうか、お体だけを大切に、俺をずっと見守っていてください」
「ありがとう。優しい息子を持って私は幸せだったわ。少しだけ抱き締めてくれるかしら。あの人たちのことを思い出したいの」
「もちろんです」