魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)

 馬鹿げたことだと一蹴してしまえるならよかったが……その噂には続きがあった。
 ディクリドの親が、叔父であるイデルであるというのだ。

 なによりもそれは、かつてディクリド自身が想像したことであり、それを裏付けようとするかのように今のディクリドの姿は、かつてのイデルと瓜二つだった。

 そして噂が真実味を帯びるにつれて、ある伯爵が声高に主張した。ディクリドにハーメルシーズ辺境伯位を引き継ぐ資格なしと。
 その言い分はこうだ。先の戦で叔父イデルは、父リエフから辺境伯位を継ぐことはなく、先んじて死去している。そして、彼に公式に妻のいた記録は無く、ディクリドの出自も不明。はたしてそんな人間に継承権を与え、巨大な領地を好きにさせていいのかと……。

 その意見で城内の勢力は真っ二つに別れてしまい……そして、真偽に一番近い人物――母のグレイアが、厳しい糾弾にあうことになってしまったのだ。

 その件に関して、グレイアは一切を語ろうとはしなかったし、ディクリドも彼女を母と信じている。自分が父リエフの息子ではないのかと、一度たりとも聞いたりはしなかった。だが、日に日に疑いの声は増し、グレイアの表情からは生気が薄れていく。深く懊悩しているのは明らかだった。