魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)

 戦後多くの家族や仲間を失い、喪に服すハーメルシーズ領内は暗い雰囲気に包まれていた。

「父を救えず、叔父の仇も取れず……。俺はなにをしに行ったのだ……」

 それはディクリドも同じで、新たな領主として立つ準備を進める傍ら、強い喪失感に襲われ続けていた。そんな彼の唯一の拠り所が母であるグレイアの存在だった。

 夫と、懇意にしていたその弟を失い、グレイアはその頃から塞ぎがちになり、寝込んでいることも多くなった。そんな母の世話をしている時だけ、ディクリドは無力感に苛まれずいられた。

「母上だけは、健やかにお過ごしください……。父上や叔父上の分まで長く生き、俺にできうる限りの孝行をさせて欲しい。将来新しい家族が増えるのも、花でも愛でていればあっという間です」
「ふふふ……そうね。もうお前もそろそろ、可愛いお嫁さんを見つけなければ」

 臥せる母親の看病をしつつ、取り留めのない話をする時だけが、ディクリドの心休まる時だった。だが、束の間の平和な日々も過ぎ、ディクリドが成人たる十八の歳を控え、正式にハーメルシーズ領を受け継ごうとする直前に、ある噂が城内を揺らす。

 それは――ディクリドが先代領主の息子ではないという内容だった。