魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)

 彼らと馬を駆ってひたすら西部の国境を目指し、数日で現地に辿り着く。だがその時にはもはや、国境付近に固められていたハーメルシーズ軍は手の付けようもない状態だった。

 砦はところどころに火を放たれて陥落しかけ、残る兵士たちの戦意はもはや風前の灯火。そして目の前からはマルディール王国の大軍が雨あられと矢を降らせて来る。
 砦に入り込んだディクリドたちを出迎え、砦の指揮官は体中に刻まれた痛々しい傷もそのまま、涙ながらに謝罪した。

「申し訳ございません……! ハーメルシーズ辺境伯を、お守りすることは叶わずっ……! 伯は最後まで陣中で味方を奮い立たせ、檄を飛ばしておられました。民を守れ、ハーメルシーズの平穏を奪わせるなと……。そのお姿は誇り高く……」

 指揮官が案内した場所には、父の亡骸が安置されていた。
 ディクリドは震える手で父の顔に触れた。普段戦いに赴くことのないこの人が、身体にいくつもの傷を受けながらも、必死に戦ったのだ。守るべきもののために……。

 今も多くの敵軍が大地を揺らし砦を突破せんと向かってくる中、ディクリドは、叔父の言葉を思い出し恐怖を頭の中から追いやった。
 ここにいる皆が、膨大な数のハーメルシーズ領領民の命を背負っている。戦わなければ、こんなにも簡単に、それぞれにとって大切なものが次々と奪われてゆく――。そんな思いをするのはもう十分だ……。