魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)

 父は肩に手を置くと、最も大事にしていた、数代前の辺境伯が賜ったとされる勲章――ノルシェーリア王国の国旗にも使われている、青い菱形の楯を模した――それをディクリドに手渡す。
 そしてグレイアを抱き締め、そのまま部屋を後にしていった。母はそれを毅然と見送ると、ディクリドに縋りついて堪えていた涙を流し出す。

 その時から……突然にディクリドは、戦に臨む父から広大な領地を預かり、配下と共に治めてゆかなければならなくなった。

 配下や母に仕事の手ほどきを受けながら、瞬く間に半年ほどの時間は過ぎたが、未だに父は帰らず戦には終焉の兆しが見られない。そして、ついにある恐ろしい知らせが届いた。

 最前線に留まっていた父の軍が孤立し、絶体絶命の危機に瀕しているというのだ。

 信頼していた叔父だけではなく、実の父までも……居ても立ってもいられなくなり、ディクリドはその日ひとりでハーメルシーズ城を発とうとした。しかし、想いを同じくした配下たちはそれを察して城内の練兵場に出揃い、同行を申し出た。

 配下たちも、ハーメルシーズの盾と名高い叔父に引き続き、父まで失ってはこの領地を維持することは困難と考えたのだろう。残ったのが若干十六歳のディクリドだけとなれば、そういった結論に辿り着くのも無理はない。