魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)

 慌てて駆け寄った侍女は、額を割ったディクリドの顔を見るなり、恐怖に顔を歪ませて走り去った。この時初めて、ディクリドの中にある【狼変化】の魔術が発動したのだ。その人外と化した姿に、城の人々は遠巻きに見るばかり。

「どうして皆、助けてくれないの……」

 まるでおぞましいものを眺めるように見つめられ、金臭い血の味が口の中に広がるのを感じながらディクリドは痛みに耐えた。しかしそれも、すぐによくわからなくなる。重傷を負い、獣の姿に近付くほど、正常な思考能力が奪われていったのだ。
 茫洋とする意識がもはや保てそうになく思えた時……そこですさまじい一喝が城内に響いた。

「なにをしている! 伯の令息の大事だぞ! さっさと動かんか!」

 それを発したのは、たまたま騒ぎを聞きつけて駆けつけた叔父のイデルだった。彼はわずかな動揺も示さず速やかに醜い姿になったディクリドを抱えると、城の医務室へと走る。

「心配するな。お前がどんなものになろうと、俺たちは決して苦しむ姿を見過ごしたりはせん。大切な家族だからな」