魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)

 皆、強く逞しい心を持った頼もしい人たちなのだ――そう私が同意すると、彼はなによりも嬉しそうに破顔した。

「そういえば、お前には最初に見せてしまっていたな。もう隠し立てする必要もないか」

 話題が急に変わり私が首を傾げると、彼は親指を犬歯の間に挟み、軽く力を入れた。
 唇の間から細い血の筋が垂れたが、それよりも私は目の前の彼の変化に心を奪われていた。
 彼の身体が紫色の光を帯びて、髪の色が美しい金色に変わってゆく。いや、それだけではない。少しずつ体中も金の体毛に覆われ、瞳孔は縦に裂け、牙と爪が伸びだした。

 その姿に私は記憶を刺激され、たった一度だけ目にした金色の狼を思い出していた。

「その姿は……! あれは……夢ではなかったんですね」
「ああ。俺の身には魔術が宿っている。血の味を強く感じると、それを引き金として俺の身体は人狼へと変化する。この姿のせいで、敵国の兵の中には俺を“不滅の金狼”などと呼ぶものもいるな」