魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)

 そうして一礼して去ってゆくふたりを見送ると、リラフェンが破顔した。

「楽しみね! 新年のお祝い!」

 そう、リラフェンが言った通り、本日はお城で新年を祝うパーティーが開催される。街の人々も多くが参加し、前年度の感謝を込めて、城のコックたちが腕を振るった料理の数々が振る舞われるようだ。

 気付けばもう時間もなく、リラフェンとお互いに協力して最低限の化粧直しをし、一緒に店を出る。そこからは早足で急ぐと、宴の前にハーメルシーズ城に向かう最終の馬車便に間に合い、なんとか滑り込んだ。
 同乗した人たちも明るい表情を浮かべ、口々に今回の料理の出来の予想や、本年度に向けての意気込みを語っている。

「あたしたちにとってもいい年にしたいわね、サンジュ」
「ええ……」

 こんなにも前向きな気持ちで新しい年を迎えられるとは思っていなかった。ずっと、ここにいる多くの仲間たちと肩を支え合い、共に笑い合って暮らしていきたい。
 そんなことを思う私の頬をリラフェンがつんつんと突いた。