魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)

 それまでとは違う真剣さで単刀直入尋ねた私に、ディクリド様は、得心がいったように片目を細めた。

「ははあ。それでお前は悩んでいたのか……。フィトロから直接聞いたのか?」
「いいえ。彼は今はなにも言えないと……。でも私、落ち込んだリラフェンのことを放っておけなくて、お城の人たちに噂を聞いて回ったんです」
「そうか……」

 彼は片膝を立てた状態で目の前の青空を仰いだ。その静謐(せいひつ)な表情からは、なにを考えているか読み取れない。その内彼は、ある昔話を私に切り出した。

「……フィトロがこの城に来た七年かくらい前、やつはまだ十五かそこらだった。俺は最初、やつを城の下男のひとりに預け、庭師にでもさせようとしたのだ。気の優しいやつは、妹と一緒に穏やかな生活を送ることを望むだろう、そう思ってな。だがやつは……安穏とした生活を望まず俺に直談判し、若くして兵となり戦場に身を投じた。それは俺に恩義を返すため、という側面もあるが、一番の理由は……言わずもがなリラフェンの幸せのためだ」

 それは付き合いの短い私にもわかる。フィトロさんは唯一、リラフェンだけに子供っぽい仕草や言葉遣いと言った素直な部分を見せる。それに時折見せる慈愛の表情は、彼女だけを、大切な宝物として扱っていることを感じさせる。