魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)

「すみません。僕らの今後に関わる話で、今はまだ話せなくて。妹の様子だけでも確かめたいのですが……少しだけ部屋に入らせてもらえないでしょうか」
「え~と……」

 時刻はもう夕方の六時に差し掛かろうと言うところだ。これ以上の来客はおそらくないはず……。そう判断した私はお店を締めることにし、玄関に鍵をかけてフィトロさんを二階に招いた。
 そして、リラフェンの部屋の扉をノックする。

「……リラフェン、起きてる? お客様よ。フィトロさんがわざわざ来てくれたの。あなたに会いたいって」

 それに対する反応は劇的とすら言えた。ドアノブを回しかけたところ、中からバタタと騒がしい足音が聞こえ、鍵締めの音と共にリラフェンが鋭く叫んだのだ。

「嫌! 会いたくない! 帰って!」

 そして再び床を靴が叩き、ベッドの中に潜り込む音。それきり私が問いかけても、彼女はなにも答えようとはしない。
 そしてフィトロさんも厳しい表情で扉を見つめている。
 なんとなく、ふたりの間でなにかがあったのだと感じたが……私にできるのは困った顔で、フィトロさんを見上げるくらいのものだ。