魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)

 彼女の言うように、私たちはできる限り懇切丁寧に街の人たちに魔導具の利点を伝えて回ったつもりだ。直接話をした人に、ぜひ他の人に紹介して下さいと頼み込んだりもして、頑張った結果がこの状態では、私もリラフェン同様落ち込みを隠せない。
 店内に所狭しと並んでいる、苦労して作った魔導具たちの輝きも、今は虚しい……。

「どうしてかしら。街の人たちには、ちゃんとどういうものかも説明したし、少なくともひとりふたりは興味を持ってくれても……」

 たまに外からやってきた人がちらちらと店内を覗いていくが、中に入って商品を手に取ってくれたりする様子はない。表情もなんだか不審そうで、街の一員として受け入れてくれようとする気配もない。

「私の見立てが間違っていたのかしら……」

 今回の開店に備えて用意したいくつかの魔導具というのは、以下のような品揃えとなっている。

 魔石の魔力が続く限り永遠に新鮮な水が湧き出てくる“水無限(みなぎり)のピッチャー”。
 先端に高熱を灯すことで、種火がなくても物を燃やしてくれる“仄火(ほのか)のロッド”。
 風の刃でザクザクと切れ味よく雑草や穀物、木材などを断ち切れる“風裂(かざき)のサイス”。
 地面を突けば、振動でどんな硬い土だろうとたちまちほぐす、農作業に便利な鍬“地割(ちかつ)のフース”。