魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)

 私は朝早くから外に出ると、店から少し離れて立つ一本のカシの木の根元で、街の全景(パノラマ)を見下ろした。
 そうすると、緑の平野や山並みを額縁として、諸々すべてがすっぽりと視界に入る。

 地面の草むらが所々剥げているのは、もしかしたらここをアトリエにしていた画家も、この光景を目にしながら絵筆を振るっていたのかもしれない。

 その人はこの場所で、街々に……この世界にどんな“彩り”を見出して行ったのだろう……。

(よし……新しいスタートだ。色んなことをしっかりと見つめていこう。この目で)

 私も――と、その幻影に触発されるように勢い込むと、ひとつ頷いてお店の方を振り返る。

 今や、“辺境伯の御用達”はあちこちが盛大に季節の花々で飾られている。ディクリド様やフィトロさんを始めとしたハーメルシーズ城の人たちが、開店を祝ってたくさんの花飾りを贈ってくれたおかげだ。
 昨日、彼らは口々にお祝いの言葉と共に、きっと繁盛するよい店になるだろうと太鼓判を押してくれた。