魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)

 それを脳内の術文と重ね、ただ黙々と、一定の力を込めて私は槌を振るう。

 最初の内は、揺り返すようにファークラーテン家での記憶が襲って来た。再び、この作業を行うことを拒否している自分がいる。だが、汗が滲み手が震えそうになる度私は息を入れ、作業部屋の窓の外の景色を見つめた。ここは、あの場所じゃないし、私も、前の自分じゃない。

 その想いを胸に、そんなことを何度か繰り返すうちに、少しずつ私の意識は落ち着いて心の底に沈み。

 ――トン……トン……トットットット……。

 正確な槌を振るうリズムと共に周りの世界と同化していく。そうなればもう、なにも考えることは必要ない……息を吐くことと、生きることとすべて同じ。私は、ただ魔導具を生み出し続ける――。

 そうしていると、瞬く間に登っていた太陽が月と入れ替わっていたようで……。

「――サンジュ!」

 気付けば机の上には山のように重なっている術式盤があった。後ろから心配そうな顔でリラフェンが見つめている。