月に歌う


 月が、月が、月が。
 月が、明るい。
 私たちはまだ、きっと上手に会話は出来ない。
 わかっているからなのか、さかき君は何も喋らなかった。
 私が示す道を、共に無言で行くだけだ。
 それだけなのに、こんなに楽しくて幸せな気分。

 私は小さく、月に歌う。
 さかき君はまるで聴こえているかのように、私を見つめて真似して唇を開いたり閉じたりする。
 一緒に、歌っているように。

 最後の一小節の歌詞は、空の月だけが聴いている。

 『言葉がまだこの世になかった頃、愛はきっとあの光を指さし伝えたのでしょう。あの、月の淡く眩い光が、君への私の心だと』

 いつか、さかき君にも訳してあげるね。
 そんな、私が大好きな歌の歌詞。
 今はまだ、あなたには秘密。