私は、今、夢を見ている。
なんの夢を見ているかは、もちろんわかる。だって、自分で祈ったから。望んだから。
ー“天使の夢”を、見たいって。
白い霧に覆われている私の視界は、すごく狭い。
でもきっとすぐに、視界にある白い霧は、私の視界から消えてくれるだろう。
さあっと、雲の上では吹かないはずの風が吹いて、私の視界を埋め尽くす霧も、私の髪も風に靡いた。
「ちょっと天使」
「ああ…キミかぁ」
「…他の子は名前で呼んでいるくせに、どうして私だけ『キミ』呼びなの? 意味わかんない」
どしどしと天使の方へ歩いていく。
別に嫌いでもないけど、今回はすごくムカついた。
ーこのヘラヘラしてる、猫被りサイコパス天使め。
「お〜イライラしてんね「なんなの?」
言葉を遮って聞く。
「どうして? 私は、私なら何をしてもいいから、“あの子”だけには何もするなって言ったよね? 話聞いてないの? 耳ない?」
「いや?」
「…もぎ取ろうか?」
がしっと天使の耳を掴む。
「べっつに〜ちぎられても聞こえるし。どっかの誰かさんと違って」
軽く煽ってくる。
「茶番はもういいから。とりあえず、返事して」
本当に、腹立つ…。
「言ったよね? 私。“二週間前”に。私が生きる代わりに、何か代償を…ってあんたに言われた時、私は何をしてもいいから、“あの子”には何もしないでって!」
「言ったね」
「…!」
ーバシッ
天使がよろめく。
天使は、私に殴られて赤くなった頬を押さえながら、虚ろで、何を考えてるかわからない瞳で私をじっと見据えた。
「ふざけないでよ!」
雲の世界に、私の怒声が響き渡る。



