どんな君でも、溺愛します。





私が…好き? 倉くんを?


好きって…秋葉に思う「大切」と…何が違う?


秋葉を口角を上げて見ている倉くんを、見てると…胸が痛くなって、泣きたくなって、…………もやもやと、黒い感情で覆い尽くされる。



どうして…?



「綺麗っ… 」


身を乗り出した秋葉にすぐ倉くんが近づいて、そっと支える。


「落ちる」


……‼︎


あまりにも、近づくスピードが速かった。


そんなに…見てたの?




……ずるい。


感情が…名前のないはずの感情が、名前のあるものへと次々と変わって、溢れていく。



嫉妬、欲望、愛情。


名前のなかったはずのものが、どんどん私の中から溢れていった。


「…っ」



思い出すつもりは、もちろんなかった。


でも…思い出してしまった。



…私…倉くんが、好きだ。


秋葉に最近抱いていた感情は、きっと嫉妬だったんだろう。


秋葉にまで嫉妬するなんて…本当私、ダメだな…。というか、二週間で思い出すって…天使の魔法って、ただの天使の自画自賛で、本当は弱々なのかも…信用できないな。


私…そう言えば、倉くんが私のこと忘れてなかったの、ブーイングしに行ってない。


でも…今行ったら、結局消されるだろう。


…やだ。

消されたくない。

だって…また、孤立したくない。


やっと、思い出したのに。

そりゃ、私は思い出してはいけない存在だ。そんなことくらいわかってる。


でも…感情を取り戻したら、今まで名前のなかったものに、次々と名前がついていって、泣きたくなった。


「倉くん」


「…?」


振り向いてくれた倉くんに精一杯の笑みを浮かべる。


きっと、私の笑みは今、ぎこちないだろう。


二週間も表情筋使ってなかったらそりゃそうなるだろうけど…それだけじゃないと思う。


「私…教室戻ってるね」


サボるのが嫌って、あれだけ嘆いていた秋葉の気持ちがよくわかった。


倉くんと一緒にいたいけど…でも、今は秋葉も倉くんのことが好きな気がする。

…邪魔したく、なかった。


ばっと身を翻して、屋上の扉から走って出ていく。


「ちょっ…実紀⁉︎」

「おいっ…待てっ!」


2人の声を無視して、とにかく走る。走る。走る。


急に涙が溢れてきた。


…ずるいよ。


秋葉には…もう嫉妬しない。だって、秋葉はすごい優しくて、可愛くて…私とは比べ物にならないくらいだから。

でも…。


私、感情を失くしてたんだよ? なのに、なのに…私にかけられた魔法という鍵を破るほど、私を溺れさせるの。



倉くんって…ずるいよ…。


私は、屋上から教室に行く時絶対に見えない、実は鍵が壊れている図書室へ滑り込んで、声を殺して泣いた。