「はあっ、はあっ」
息が上がる。
肩で息している私を見て、桜井くんは手を離してくれた。
「ど、どうしてっ…じゅ、授業中だよ…⁉︎」
「俺が勝手にムカついただけだから」
…っていうか…ここ、屋上の扉が前の、階段の踊り場だ。
「桜井さん? ここにきても鍵ないし、立ち入り禁止だよ?」
「本当、真面目か」
「真面目…って言うか桜井さんが不真面目すぎるんだよ‼︎」
「だろうな」
わかってるなら直しなよっ…‼︎
「てか、鍵はある」
「え⁉︎」
前みたいに、今日も持ってるの…⁉︎
当たり前のようにポケットから鍵を出した桜井くん。
「ほ、本当に使いたい先生いると思うよ…?」
「問題ない、これがまた。職員室に同じ鍵がある」
さらっと答えられる。
…っていうか、性格が超元気が有り余ってて、あっちこっち行っちゃって…みんな手を焼いてるけど…意外と、そっけない?
まさか意外とクール…って、クールって何だっけ…?
わからないから、聞かないでおいた。
聞いて、墓穴掘りたくないっ…!
がらがらと開く扉に、後ずさる。
「ちょっ…私は入らないから!」
「何のために連れてきたんだよ、それじゃ。前は一回で入ったくせに」
…っ。
覚えて、たんだ。
私の夢かと思ってた。桜井くんは次会っても、普通。と言うか前みたいに話しかけないし、無視してるし、至ってただのクラスメイトという立場だったから、忘れられてるかと思ってた。
私は、忘れない。忘れるわけがない。
衝撃だったから、話したこともないクラスメイトが、私のことを見つけてくれたから。
いつもいる人は気づいてくれないのに、接点がない人が気付いてくれたから…。
…いや、前は気付いてなかったのかもしれないな、うん…。
覚えててくれたことに、何だかこの気分だったら天まで舞い上がれるような気がする。



