そんな憎まれ口が、お別れメッセージにしか聞こえない。
「私、忘れないから! 屋上のこと…!」
私は、秋葉との距離がどんどんできていることを自覚していた。
大声で、涙声で、叫んだ。
「だから、秋葉も忘れないで!」
「…いいよ、もう。忘れるのなんて…しょうがないから」
「秋葉! 秋葉ー‼︎」
もう二度と、会えないんだ。
そう思うと、タガが外れたようにぼろぼろと涙が落ちていく。
だって、姉のようだった。本気で好きだった。
姉も、友達も、一気に失う? やだよ。
『実紀』
いつだって、私の応援をしてくれた。
いつも、私優先だった。
ずっと、もっと長く、一緒にいたかったのに。
世界は、それさえも許してくれないの?
私だって、秋葉の恋の応援をしたかった。
もっと、もっと一緒にいたかった。
ああ、この49日間を、もっと有効に使えばよかった。
秋葉とずっといて、感情がある状態で秋葉と過ごしていたかった。
それさえも、叶わない?
後悔してもしきれない。
私は、こんなに秋葉の愛情に囲まれてたんだろうか。
49日間後に消えてなくなるなんて、余命宣告されたような状態で、しかも自分のせいで友達の感情が消えてしまったと、優しい秋葉は苦しんだだろう。でも、最後まで、嫉妬に苦しんでも、私を優先してくれた。
秋葉…好き。
もっと、一緒にいたかった。
秋葉の姿が、霧の向こうに消えていく。
「秋葉!」
霧と同時、記憶もあやふやになっていく。
嫌だ、消えたくない。この49日間、いろんなことを学べたから。
なのに、どんどん消えていく。
『実紀、さよなら』
秋葉の優しい声が耳に残って、そして、消えていた。
** **
秋葉が、亡くなっていた。
そう聞いた時、私は心臓が止まったかと思った。
秋葉のお葬式の時、実感した。涙が止まらなかった。
この一ヶ月くらい、どうして気付けなかったんだろう。秋葉が、病気だったなんて。
そう記憶を遡った時、気づいた。
私、この一ヶ月間くらいのこと、記憶にない。
強いて言えば、倉くんに告白したことくらい。
それに、亡くなったのは49日前なのに、なぜかお葬式もやってないし、私も初耳だった。
私も、秋葉のお母さんたちも、何をしていたんだろう、この一ヶ月ほど。
もやもやが消えない。
その違和感は、倉くんにも繋がっていた。
私たちは、付き合ってる。そして、私から告白した。
なのに、どうしてその日告白したか、覚えてない。
なんで? なんで? なんで?
いろんな疑問が、おかしなことが積み重なって、世界が一ヶ月止まっていたような気がする。
何をしていたんだろう。
でも、一ヶ月くらい病気だったのなら、流石に毎日会っていた私は気付くだろう。
なんで、気付かなかったの?
流石にちょっとでの違いには、私はこれまでも気付いてきた。
幼馴染で、親友で、家が隣で…。
ずっと見てきたんだから、わかる。
なのに。
気付いていたはず。
なのに、どうして覚えていないの?
私、記憶喪失?
しかも、周りの人も記憶喪失?
そんな一気に記憶喪失することあるの? そもそも記憶喪失が稀だから、そんな簡単になるわけないだろう。
周りの人全員、事故に遭ったとか?
…そんなことない。
でも、記憶喪失は、きっと秋葉の大事な記憶を失ったんだと思う。
…やだ、秋葉のこと忘れたくない。
どんな記憶でも、秋葉のこと忘れたくなかった。
スマホを出すと、倉くんの連絡先が入っている。
連絡先を入れたのは、ついこないだ。
私が倉くんに告白した時。



