どんな君でも、溺愛します。



「お邪魔しまーす!」

「いらっしゃい、秋葉ちゃん」

秋葉が、私の家に泊まりに来た。

「今日のご飯は豪華にしないとねー」

お母さんがいつになくルンルンしている。

ご飯まで、私たちは私の部屋で、作戦会議を開くことにした。

「ここは…こうやって言った方が…」

「あっ、なるほど! それで、ここはこうして…?」

「うわ、実紀天才!」

修正を入れて行ったり、ちょっと変えたりを繰り返して、ようやく秋葉も私も満足できる台詞ができた。私は、最初から満足してたけど…。


私の気持ちがちゃんと入っている、本当にいい台詞だと思う。

「よし! それでは、これを覚えるだけ!」

「え⁉︎ 見ながらじゃダメ⁉︎」

「あっまーい! 決められた台詞感が嫌すぎるでしょ!」

…確かに…。

「じゃあ! 覚えてね⁉︎ もし忘れたら、そん時の実紀の気持ち、全部ぶつければいいだけだから!」

そして、私はそのメモの中身を頭に叩き込んだ。


** **

いっ、いよいよ“明日”が来てしまった。

お母さんに手を振って、家を出る。


「いい? 実紀。ついたらすぐに呼ぶんだよ⁉︎」

「は、はい!」

「私も茂みの中で見てるから。先生として!」

「…からかいたいだけな気が…」

「気にしない、気にしない」


…もー…。

っていうか…私、そろそろ本当に…やばいんじゃない⁉︎


今更ながらドキドキしてきた。

だって、振られたら? 嫌な顔をされたら?

「……っ、本当に言うの…?」

「うん。だって…何かあってから言うんじゃ、手遅れでしょ?」

何か、あってから…?

「何が、あるの?」

「え〜、色々?」

秋葉は、誤魔化すのが上手い。

素直で正直なのに、さらりと違和感なく流してしまう。


私も、しょうがないなと流してしまう…。

って、ついた⁉︎

「うううっ、どうしよううぅ、教室入りたくないよおおぉ…」

「いくよー? それに、桜井がいない場合もあるじゃん?」

…でもっ。

教室の前で怖気ついている私を、秋葉がぐいっと引っ張って中へ入らせる。

「あっ、ちょっとっ…」

と、とりあえず倉くんが来てないことを祈る…!


…なのに。


「はよ、実紀」



どうしてこういう時に、いるんでしょうか…。


「頑張れ、実紀! 後でついてくから!」

「…そっ、倉くん」

「ん?」

倉くんが頬杖をついていた手をとって、私を見据える。


「お話が、あります…!」




一瞬、私と倉くん以外教室にいない気がした。


「…? いいけど…? まさかの俺、近づくなって振られる系?」

「…」


なんか言ったら、クラスメイトに何か言われる可能性があるため、私は黙って前を歩いた。