「諏訪野さん、私、そろそろ家に帰らないと」
「じゃあ送ってくよ。高瀬さん、今日この後って」
「5時からカンファレンスだけですね」
「それまでには戻るから一度外に出ます」
「了解しました。お気を付けて。小夏ちゃんはまた明日ね」
「はい、ゆかさんまた明日」
そう言うと、ゆかさんは私と諏訪野さんを残して後ろに下がっていった。
「小夏、よかったね。また仲間が増えたよ」
「うん。私は一人じゃないんだなって思えました」
「そうだよ。でもそれはいいことでもあり、みんなを巻き込んでいるってことでもあるんだと思う。だからこそ諦めずに気持ちを前に向けなきゃね」
その時、私の心の中に風が吹いたように感じた。
清々しくて、切なくて、甘い匂い。
そう、きっとこれは始まりの風。
「ーー私、諏訪野さんが居てくれてよかった。諏訪野さんは厳しいけど、嘘もないから。私ちゃんと前を向いていけるよ」
うんと頷くと、じゃあ行こうかと私の手を引く。
診察室を出ると、どうしたんだろう。とても胸がドキドキした。
発作じゃないけど、発作みたいに沸き起こる衝動。
臆病者だった私は、もういない。
いつだって本当は前だけを向いてたくて、失っては泣いて、もがき続けて、でも全てを吐き出せる仲間ができて。
ーーああやっと解った。
私、いま、どうしようもなく歌いたいんだ。
すると、私の視界にあるものが映った。
「諏訪野さん、あれ、ちょっとだけ借りてもいいかな?」
「あれってーーピアノ?」
「うん、ちょっとだけ。私いますごく幸せで満たされてて、だからこの気持ちをちょっとだけでもいい。いま伝えなきゃ、始まらないの!」
諏訪野さんが答えを言うより前に、私はもうピアノに向けて走り出していた。
病院の玄関ホールに置かれた、一台のグランドピアノ。その椅子に座って、冷たく静かなピアノの蓋を開ける。
「じゃあ送ってくよ。高瀬さん、今日この後って」
「5時からカンファレンスだけですね」
「それまでには戻るから一度外に出ます」
「了解しました。お気を付けて。小夏ちゃんはまた明日ね」
「はい、ゆかさんまた明日」
そう言うと、ゆかさんは私と諏訪野さんを残して後ろに下がっていった。
「小夏、よかったね。また仲間が増えたよ」
「うん。私は一人じゃないんだなって思えました」
「そうだよ。でもそれはいいことでもあり、みんなを巻き込んでいるってことでもあるんだと思う。だからこそ諦めずに気持ちを前に向けなきゃね」
その時、私の心の中に風が吹いたように感じた。
清々しくて、切なくて、甘い匂い。
そう、きっとこれは始まりの風。
「ーー私、諏訪野さんが居てくれてよかった。諏訪野さんは厳しいけど、嘘もないから。私ちゃんと前を向いていけるよ」
うんと頷くと、じゃあ行こうかと私の手を引く。
診察室を出ると、どうしたんだろう。とても胸がドキドキした。
発作じゃないけど、発作みたいに沸き起こる衝動。
臆病者だった私は、もういない。
いつだって本当は前だけを向いてたくて、失っては泣いて、もがき続けて、でも全てを吐き出せる仲間ができて。
ーーああやっと解った。
私、いま、どうしようもなく歌いたいんだ。
すると、私の視界にあるものが映った。
「諏訪野さん、あれ、ちょっとだけ借りてもいいかな?」
「あれってーーピアノ?」
「うん、ちょっとだけ。私いますごく幸せで満たされてて、だからこの気持ちをちょっとだけでもいい。いま伝えなきゃ、始まらないの!」
諏訪野さんが答えを言うより前に、私はもうピアノに向けて走り出していた。
病院の玄関ホールに置かれた、一台のグランドピアノ。その椅子に座って、冷たく静かなピアノの蓋を開ける。


