キミのために一生分の恋を歌う -first stage-

この池の周りには桜の木があって、春にはたくさんの綺麗な花をつける。
それが涙が出ちゃうくらいきれいなんだ。
私はその桜の景色を思い出しながら、右手を頭上まで持っていき木々へとかざした。もちろん花びらは落ちては来ないけれど、夏の日差しから落ちた木漏れ日が指の間から通り抜け、その眩しさに少しだけクラっときた。
やっぱり今日は少しだけいつもより体調が良くないみたい。
そう思って、近くにあるベンチに腰をかけ、涼し気な池の水を見ながらまどろんだ。

『小夏は特別な子だね。誰しも特別な力は持っているものだけど、その歌声はきっと誰かを救うよ。いつまでも大切にしてね』
『うんっ。小夏、ずっと大切に歌うから。だからきっと聞いてね』
『もちろんだよ。僕は君のそばにずっといる』

あぁ昔のことを思い出した。あの人との思い出。
胸がとてもあたたかくて、切なくて、私の全部。
自然と歌が溢れてくる。
小さな小さな、消え入りそうな声で私は口ずさむ。


『 God of the beginning 』


ーーあなたが勇気をくれたから 私の世界 ひとつになった
まるで神様に会いたいと 願う気持ち
恋しくて 永遠になる

舞う桜の花びらは 雪のようで 心揺れてしまうね
風にそよいだ 君の名前 君の瞳 君の心

きっと全部私が憶えている
繋いでいくから

この手を離さないで 聴いていて 私の声を
哀しい朝も 眠れない夜も
君がいるから意味がある
私の特別になる

君のために流す涙は 海になった
遠くまで 遠くまで
届けたい この気持ちーー



「ーーそれbihukaの曲だよね」

突然聞こえた、知らない男の人の声に私はびっくりして後ろを振り返る。
そこには白いTシャツと紺のジャージにメガネとシンプルな格好だけど、それが様になってる長身で爽やかな見た目をした男の人が居た。
耳にかかるくらいの細い髪の毛は風に乗って、サラサラと揺れている。
メガネの奥の瞳は少しだけ気が強そうで、何かを試すような目で私を見つめてくる。
一言で言ってしまうと、すんごくかっこいい人。

「あのーー」
「あっ! この歌はそのえっと……え〜っと……そうそう!!今日クラスで1学期のお疲れ様会があってみんなでカラオケ行くんです! そこで歌おうかなぁなんて……ハハハ」
「そうなんだ。お姉さん、すごく歌上手いですね」
「え!? そうですか何かもう気合いが入り過ぎちゃったのかな。昨日カラオケでオールで練習しちゃったみたいな」
「へ〜だからそんなに顔色悪いんだね」
「それはーー」

いつもの事ですと続けようとしたのに、そこで咳が止まらなくなった。
ヒューヒューと息が漏れて、息苦しい。
体調が良くないと分かってたのに歌ったから。
それとも突然現れたかっこいい人に正体がバレそうになって焦ってるから?
それともこの人を見てると感じるよく分からないこの動悸のせい?