キミのために一生分の恋を歌う -first stage-

いつものようにスウェットを着て、万が一の時のリリーバーとスマホを持ってウォーキングの準備をする。
家を出ようとする前に顔色が悪いことに気がつき、色つきのリップだけ鏡の前で塗った。

渋谷のスクランブル交差点を通って、代々木公園の噴水池がゴール。でも今日はなんだかソワソワして、交差点の大型ビジョンに私の歌が流れるのを待つまでもなくいつもより足早に通り過ぎた。

すると向かい側からすみちゃんと愛犬麦が手を振ってやってくる。

「小夏〜! なんだか今日は忙しそうだね」
「すみちゃん、麦。おはよー。え、暇だけど」

と挨拶を済ませると私はその場にしゃがみこみ、いつものように、いやいつもより努めて丁寧にお腹を見せてくれる麦を撫で回した。

「何だいつもの小夏かぁ」
「そうだよ。何も変わらないよ?」
「てっきり諏訪野さんと何かあったかと思って」
「え!? なんで分かるの」
「やっぱり。うちら何年友だちやってると思ってるのよ~」

私はそのまま諏訪野さんが主治医になったこと、発作を起こした時に優しくしてくれたことを話したが、bihukaのことはどうしても話せなかった。

「まだ何か言い足りない顔してるね」
「すみちゃんって魔法使いなの?」
「小夏がわかり易すぎなんだって。言わなくてもわかるよ。言いにくいことは無理に言わなくてもいいけどさ、ほんとはうちに何か言いたいんでしょ?」
「ワンっ」

麦にも分かるよとも言いたげな、ドヤ顔のワンという鳴き声が挟まった。
私は麦をよしよしする。

「それにしてもすごすぎ……」
「夏休みだしさ。近いうちにどっか遊びに行こうよ。小夏の好きなとこ。そこで教えて」
「分かった」
「とにかく今日もやばいほど顔色悪いから早めに帰りなさい」
「そんなに?」
「うん、じゃああとで連絡する」

すみちゃんはバイバイと手を振りながらまるで嵐のように帰って行った。