キミのために一生分の恋を歌う -first stage-

「ただいま〜」
「おかえりお姉ちゃ〜〜ん!!」

家に帰ると小春がすぐ駆け寄ってきて、荷物をうけとってくれる。荷物を部屋に置いて部屋着に着替えると、一度リビングの椅子に座った。すると小春が夕飯を目の前に置いてくれる。

「野菜スープなら食べられそう?」
「うん、ありがとう」

小春は発作を起こした後は食欲が落ちることも把握しており、何も言わなくともいつも身体に優しい軽めの食事を用意してくれる。
自分の分の普通の食事(今日はハンバーグみたい)も用意して一緒に食べ始める。

「ところで諏訪野先生は?」
「下までで大丈夫って私が言ったの」
「そうなんだ。直接お礼言いたかったな」
「ハハ、ごめんね。すごく良くしてくれたんだけど、まだ会って2度目だし何か悪くて」
「え……? 今日病院で初めて会ったんじゃないの?」
「うん実はねーー」

私は代々木公園でのこと、bihukaの正体をその時からほぼ見破られていたこと、そして今日諏訪野さんと約束したことを全て正直に小春へと話した。

「そっかぁ。諏訪野先生がそう言うなら私はそのまま従った方がいいと思う」
「小春はbihukaが夏休みで終わっちゃっても本当にいいの?」
「それは寂しいけどさ。bihukaはお姉ちゃんの歌声があっての存在だし」
「私だって小春が居なきゃ何も出来ないよ」
「それはそうかもね(笑)」
「もう。ごまかさないで。でも、本当にごめん」
「あのさ、お姉ちゃん。ちょっと見てほしいものがあるの」

そう言うと小春はイスから立ち上がって、自分の部屋に消えた。少しして何かプリントされた紙の束のようなものを持って出てくる。そしてそれを私の前に差し出す。

「コレ、今まで来たコンサート依頼の紙の束なの」
「え、こんなに?」
「そう。全部目を通してから、丁重に断ってた。お姉ちゃんの場合、姿を見せるのは勿論のこと、生で歌うと体調に何があるか分からないから」
「うん」
「でも、終わっちゃうなら、私ちゃんとお姉ちゃんに歌手のbihukaとして舞台に立ってほしい」
「小春……」
「こうするのはどう? まずショッピングモールとかでミニライブをする。1曲とか2曲だけ。それで上手くいったら、夏休みの最後の日、コレに参加する」

1枚の紙を小春は私に見せてきた。