キミのために一生分の恋を歌う -first stage-

私が頷いたのをしっかり確認した諏訪野さんは、席を立ち上がって腕を上げると大きく伸びをした。

「沢山話してたらもう暗くなってきちゃったね。実は今日は小夏が最後の患者さんだったから。寝てる間に記録も終わったし、もう着替えて帰るよ。僕が引き止めたし今日は送っていく」
「送るってそんなバスで帰れます」
「でも妹さん、心配してるんでしょ」
「あ、そうだ小春!!」

スマホを確認すると、小春からの不在着信がたくさん入っていた。
メッセージアプリには心配のコメントも。
私は諏訪野さんに断りを入れて、その場で電話をかけた。

『お姉ちゃん、ちょっといくらなんでも遅すぎでしょ! どうせいつものように寝ぼけてバスを乗り過ごしたんでしょう。どこで迷ってるの』
余りにも大きな声がスマホから漏れ聞こえてくるものだから、隣にいた諏訪野さんも思わず苦笑い。

『落ち着いて小春。実はまだ病院なの。ちょっと体調崩しちゃってでも病院だったから大丈夫』
『え……? 本当に平気? 私今から迎えにいくよ』
「あのさ、ちょっとスマホ貸してよ」

すると横から諏訪野さんが手を出してきたので、迷ったものの私はそのままスマホを手渡す。

『電話代わりました、諏訪野晴と言います。今日から小夏さんの主治医になりまして』
『あ、姉がお世話になりました。諏訪野先生……?』
『はい。お姉さんはこちらで発作を起こされたのですが、今は少し熱があるものの落ち着いてます。そしてbihukaのことも打ち明けてくれました。僕はbihukaのファンでもあるので、これからは応援させてください』
『え……お姉ちゃんが言ったんですか!?』
『はい、多少僕が引き出した感はありますけど、自分から話してくれました。これからも音楽活動を続けられるようにサポートしていきますので、よろしくお願いします』
『良かったです……私、姉の身体のことがずっと心配で、いつもいつもこんなの平気って言って無理し過ぎるから』
『そうですね。お姉さんは少し頑張り屋がすぎますね。とにかく今日はこれから僕が責任をもって家まで送っていきます。引き止めた原因でもあるので』
『ありがとうございます。諏訪野先生なら、安心です。これからもよろしくお願いします』
『こちらこそ』

諏訪野さんはそのまま電話を終わらせると、スマホを私の手のひらへとポンと乗せた。
あの小春が大人しくお礼を言って電話を切っただと……!?

「諏訪野さん、あの小春を一瞬で手なずけるなんて猛獣使いの才能ありますよ」
「ハハ、何言ってんだよ。早く帰るよ。準備して」

そう促されると、あわてて私は荷物を持って部屋を出た。
そのまま促されるまま、会計と薬局(いつもは外のところに行くけれど諏訪野さんが院内で貰えるように手配してくれた)に寄って、関係者入口から外に出た。