キミのために一生分の恋を歌う -first stage-

「小夏はbihukaなんだよね? どんなに隠そうとしたって僕には分かるよ」
「どうしてですか」
「前に会った時、言ったでしょ? どんなに小さな音も聞こえるのは職業病だって。この仕事してるとさ、患者さんの細かな変化を見逃したら命取りになることもあるから。患者さんの話す言葉だけじゃなく、呼吸や脈拍、胸の音や心も全部診るんだよ。だから分かる。小夏がbihukaなんだって」

諏訪野さんの真剣な態度に、私はもうこの人から逃れることは決してできないことを悟った。

「そうです。私が……bihuka本人ですよ。嘘をついてごめんなさい。でもガッカリしたでしょう。こんな病気持ちの女で。だから誰にも知らせるつもりなんてなかったのに!!」
「そんなことない! 病気なんて全然関係なくて。本当はただ出会えたことがうれしかったんだ。イメージ通りだったんだよ。君は僕を救ってくれたあの歌声そのままの少女だった」
「そんな……私なんて」
「自分を卑下するのはやめなよ。もっと小夏は自信もっていいと思う。僕はさ、最近まで人生なんてこんなもんかって疲れてたんだ。でも君の音楽に出逢えて変われたんだよ。まるで世界が彩りを取り戻したみたいだったよ」
「そんな、嬉しいこと……」

私がまた目頭を抑えると、諏訪野さんはその両の手を取って言った。

「涙を流して欲しいんじゃない。君に笑ってほしいんだ」
「うん。ありがとう」
「ずっと伝えたかった。こちらこそありがとう。僕の心を救ってくれて」

諏訪野さんの手が頭を優しく撫でてくれる。男の人にそんなことされるのは初めてですごくドキドキした。
でもやっぱり不思議と全然嫌じゃなかった。