私からべっこう飴を受け取って、微笑んで、震える指でメガネをくいっと上げた矢野さん。
ゆっくりゆっくりと、噛みしめるように車へと戻っていく。
「…ニコ、なか入ろーぜ。そんなとこにずっといたら風邪ひくだろ」
「…………」
「ニコちゃんは甘いものが好きって聞いて、おばさんドーナツたくさん作ったのよ~!
……海人っ、ほら通訳!」
「…おう」
見えなくなっても、いなくなった跡を追いかける。
たとえばこれが家族からの巣立ちだと言うならば、私にはちょっとだけ早すぎたみたい。
お父さんもお母さんもいなくなって、狭くて暗い団地にひとり取り残された、当時の気持ちを思い出した。
「────っ、……ううっ、…ぁぁぁーーーー……っ」
ガクリと膝が落ちて、これからお世話になる家の玄関前。
「……ニコ」
「ニコちゃん…、そうよね、ずっと我慢してたのよね」
私は声を上げてしばらく泣いた。



