男主人公が私(モブ令嬢)の作る香水に食いつきました

 いいや、それは運命だったのかもしれない。けれど運命ではなくなったのかもしれない。
 運命という定義で言うなら、そんな風に消える運命ならばそもそも元々が運命ではなかったのかもしれない。
 私が介入して世界は少しずつ変わってしまった。
 根本的なところは変わらない。だから私は結局死ぬのだと、キールの手に落ちた時悟ったけれど、私は今もこうして生きている。

 だったら私はもう、神でのこの世界の作者でもなんでもないのかもしれない。
 私はたった一人の、この世界に生きるただの令嬢なのかもしれない。
 ……そんな風に思えてきて、私の瞳を濡らす涙を止めることができなくなってしまった。

 この世界で何者でもない私は、この世界の何者かになりたかった。
 前世の永澤唯奈の記憶が残っていたとしても、私はもう永澤唯奈じゃない。
 かと言ってこの世界で存在する私はリーチェであってリーチェでもない。
 なら私は一体誰なのか?
 この世界に転生した時からそんな疑問を抱えていた。

 私はこの物語の大筋を知っている。だからリーチェになりすますことだってできる。
 けれどなりすましは、どこまでいっても本物ではない。
 だって私はリーチェのような死を受け入れるつもりがないから。
 だからこそレオンの気持ちを受け入れて、マリーゴールドとの関係を邪魔してはいけないと思えた。
 一時的にならまだしも、二人の関係を壊すのはやってはいけないことだとも思えてた。