男主人公が私(モブ令嬢)の作る香水に食いつきました

「香水は魔法ではありません。魔法のような強制力もありません。香りは人の原始的な感覚である嗅覚を刺激します」

 厳密にいえば、鼻の奥には嗅細胞というのがあり、そこが香りの刺激を受け取り、嗅神経によって脳に伝達される。
 嗅覚は大脳辺縁系の扁桃体や海馬に伝えられることで、本能行動と呼ばれる食欲・生殖欲・睡眠欲、そして記憶や喜怒哀楽といった情動に強く影響を与える。
 もちろん大脳辺縁系は大脳新皮質や視床下部とも神経同士の連絡が密なため、ホルモン分泌や内臓の働き、免疫、知的活動などにも影響を与える……というのがアロマテラピーの理論だ。

「私が以前言ったように、人は香りによって嫌うことも好きになることもありますが、だからと言ってあの媚薬香水を使ったところで、まるで魔法で人の感情をコントロールしたかのように、気持ちを動かせるわけではないのです」
「ええ、それは分かっています」
「でしたらなぜ……?」

 分かっているのならなぜあの時は香水をつけ、今はつけないのか?

「以前の私はあの香水の香りをきっかけに、あなたが私を好いてくれればいいと思っていました。ですが頑なに真実を見せようとしないあなたの気持ちを、さらに香水によって捻じ曲げてしまいたくないと思ったのです」

 膝で組んだ両手を硬く握りしめた後、レオンは顔を上げた。