男主人公が私(モブ令嬢)の作る香水に食いつきました

「ではその言葉が本当だとして、どうしてあの日はつけていらしたのですか? 毎日つけるほど、侯爵様は女性に不自由をなさっているとは思いませんでしたが?」

 レオンの表情にうっすらと阿修羅像が浮かび上がる。
 もちろんこの中世ヨーロッパを想像する世界に阿修羅なんて存在はしないけれど、前世からのそれを思い出させるほど、レオンの怒りが垣間見えた気がしていた。
 表情が豊かではない分、レオンのこの不愉快だと言いたげな表情の変化はかなりのものだ。
 そもそも推しにこんな言葉を言うなんて、私も偉くなったものだ。そう思わずにはいられない。だけど言わずにもいられない。

「毎日つけているのであれば、私が好きで、私に対して香水をつけていたという侯爵様の話は嘘になります。そうでしょう?」

 さぁこれでも言い逃れができるのか。できるものならしてみろ。そういう気持ちで、肩にかかった髪を後ろへ払い、できる限り胸を張った。
 すると自然と、体の震えは止まってくれた。

「……はぁ」

 レオンは深い溜め息をついた後、ゆっくりとした足取りで、再び私のいるベッドのそばへと歩み寄ってきた。
 ベッドのすぐそばにある一脚の椅子。私が目を覚ますまでの間、レオンが座っていたものだ。そこに彼は再び腰を据え、膝の上で手を組んだ。