男主人公が私(モブ令嬢)の作る香水に食いつきました

 ……いいや、今もし、レオンの手で口を覆われていなかったとしても、きっと何も言えなかったかもしれない。
 それは私の唇を通して、レオンのゴツゴツとした手の温もりを感じてしまっているせいかのか、レオンの瞳から鋭い怒りの炎が見えて怯えてしまっているせいなのか。
 もしくは彼の顔が拳二つ分くらいの距離にあって、彼の熱い吐息を感じてしまっているせいなのか。
 はたまた、こんな風に感情を露わにして怒っているレオンに私はーー。

 そう思ったところで、私は考えるのをやめた。
 なぜなら目の前にいる彼が苦しそうに目を瞑った後すぐに、ゆっくりと瞼を開けてーー私にキスをしたから。

 キスといっても、相変わらず私の口はレオンの手の中にある。
 レオンは手で覆った自分の手の甲にキスをした。

 まるでそこに自分の手など存在しないとでもいいたげに。
 チュッと小さくも艶かしい音をかき鳴らして、彼は唇を離した。
 もどかしいとでも言いたげに、レオンは眉間に皺を寄せながら、私の元から離れていく。それと同時に、彼の手も私の口元から離れていった。