男主人公が私(モブ令嬢)の作る香水に食いつきました

 音もない無音な空間。
 自分の心臓の音すら聞こえないような、文字通り何もない場所で突如聞こえたものは、この空間の中からするのか、はたまた私の中から聞こえているのか、もしくはそれ自体が全て私の勘違いなのか。

「……」

 勘違いではないように思えて、膝を抱えて座り込んでいた私は、やっとの思いで顔を上げた。

「……っ」

 聞こえてくる音が、まるで悲痛な叫びにも聞こえる。
 けれどなぜそう思うのかはわからない。
 本当にそうなのかもわからない。
 なにせ音は、風が髪を掠めた時のように僅かで、不確かだったからだ。

「……ェ」

 耳に届く音が、少し大きくなった。
 その音に思わず私は立ち上がる。胸の奥がそわそわする。
 それは期待なのか、不安なのか。もしくはそのどちらでもないのかもしれない。

「……チェ」

 ああ、これは人の声だ。
 耳を掠めるような声が、私の止まっていた心臓の音を掻き立てる。
 期待など初めからしなければ、苦しむこともないし、悲しみに暮れることもない。
 自分で自分の感情をコントロールできないことほど、歯痒いことはない。
 何度も後悔をして、何度も自分の運命を呪って、何度も自分に言い聞かせた。