男主人公が私(モブ令嬢)の作る香水に食いつきました

 一体何で? 何が起きたの?
 胸の上にはキールが持っていたナイフが落ちている。
 手を痛めたせいで、落としたんだと理解できるけど、そもそもなんで怪我を……?

 私のそばを見ると、そこには拳サイズくらいの石。
 そしてそこから少し先にいた、フードを被った男たちは血を流して倒れている。
 さらに先へと視線を投げると、そこにはーー。

「リーチェ!」

 闇に溶け込むような、漆黒の髪。
 冷気をはらんだ青い瞳。
 その瞳の奥に宿る確かな熱気。
 私を捉える瞳は、静かな怒りに揺れていた。

「レオン様……」

 さすがは男主人公。
 なんてタイミングで助けに来てくれるのか。
 例え私はあなたの相手役ではないというのに、ピンチには飛んできてくれる。しかも絶体絶命のタイミングで。

 ……ああ、どうすれば私は彼を好きにならずにいられるのだろう。
 強がって、怒りに任せて恐怖と恐れを意識の外に追いやった。けれど今目の前にレオンが現れたことで、私の中の張り詰めていた何かがプツリと切れた。
 その瞬間、私の瞳からポロリと一筋の涙が頬を伝って落ちた。

 それを見たレオンは、切れ長な瞳を大きく見開いた後、勢いよくキールとの距離を詰める。
 さすがは帝国一の騎士、速さも力強さも、その威圧も尋常じゃない。
 キールが身構える隙を与えず、レオンはキールの首根っこを掴み、片手でそのまま壁に向けて投げ捨てた。